縁側に立つ祖父は 私の背後を食い入る様に見つめていた 数秒程 そんな祖父の様子を黙って眺めていた ・・・徐々に 祖父の目が輝き始める 「…どうして 一緒に飛んできちゃったの?」 返答は無い・・・ 私はゆっくりと後ろを振り向いた 俯いていた漆黒の長髪が 揺れた 「頭を激しく揺すられたような気持ち悪さだ…一体何が」 「兵助、」 「あぁか……えっ」 兵助は 辺りを見回して ぽかんとしている 夜とはいえ 祖父の家から溢れんばかりの灯が庭を照らしている為 周囲を確認出来る 学園周辺の景色とは一切違う事は 判るであろう 「兵助、此処は私の時代で」 「・・・・俺はを呼び止めようとしたんだ それで 腕を掴もうとしたら視界が」 呼び止める為に 私の腕に触れたから 一緒に飛んでしまったのか 力を持つ者に触れた状態ならば 力の無い者でもトリップ出来る事は 祖父と祖母が証明している 「… 此処で休ませてもらえるか?」 「それは勿論…じいちゃんも元々力を持っていたから 理解はしているし」 そう言うと 兵助が無言で立ち上がり 祖父に向かって頭を下げた ショックそうな表情は無い 否、表情自体が 無 「ちょっと待って」 縁側に上がった兵助を呼び止めた 「“元の時代”の時間は いわば止まった状態だから大丈夫、私が正確に兵助を帰せば 行きに関してはほぼ誤差は発生しないから!だから ひとまず今夜はゆっくり休んで」 矢継ぎ早にそう言ったが 果たして伝わったのだろうか… 兵助は笑みを浮かべて 私の長ったらしい科白に黙って頷いた 「…作り笑いは 授業で習わないのね」 私は暫く庭に蹲ったままでいた 13 future 「本物の忍者なんて 初めて見たわい」 祖父の瞳が 今もなお少年のように輝いている あまりの輝きっぷりに 呆れてしまった 「そんな悠長な事を言ってる場合じゃないの!私はどう償えば」 「…償うもなにも 兵助君とやらが飛んできてしまったのは偶然であろう?」 「偶然だけどさ… 私はどれだけ彼に迷惑を掛けて、」 「終わった事をああだこうだと考えるのは 無駄な労力を使うだけだぞ」 しきりと演歌が流れてくるテレビに 視線を移す この小さな箱の中で 人間が動きまわっている姿を見たら 兵助はどう思うだろうか 祖父の家で 最も広い和室に 兵助用の布団が敷かれている 様子をそっと覗いた筈だったのだが、物音に気付いたのか 兵助がむくりと起き上がった 「あっ ごめん起こしちゃって」 「いや、まだ寝ていない」 改めて 不思議な光景だと思う もう会う事は無いだろうと思っていた相手が 同じ空間に、現代に居る 「…この家は凄いな、広い上に埃一つ無い」 「田舎だから敷地が広いだけだよ」 「しかもコレ…随分と変わった着物だ」 祖父は 汚れていた忍装束を着替えさせていたようだ 自分達にとってはお馴染みすぎるアイテム・ジャージを兵助は纏っていた …服装自体はお馴染みの筈だが、普段洋服を着ない彼のジャージ姿は 違和感に満ち溢れている 「」 右腕を 僅かな力で掴まれた 振り払おうと思えば簡単に払えるくらいの 弱い力で 「“未来”の街はどうなっているのか紹介してくれないか?戦の無い時代なんだろ、気になっていたんだ」 薄暗いせいで 兵助の表情は判らなかった 俺を早く帰せ、とは 言わないのね NEXT → (09.12.17 あなたは何を考えているのか) |